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2026.04.21

行動変容をめざすための「VR-learning活用」を考える

形だけで終わらせない、KYTの本質と目指す姿

 

VR-learningの用途の1つとして考えられる、「KYT(Kiken Yochi Training、危険予知訓練)」。シリーズ最終回となる今回は、中央労働災害防止協会の安全衛生エキスパートである笹尾健臣氏にVR-learningのデモを体験いただいた上で、KYTにおいてVR-learningをどのように活かせるのか、B-EN-Gの袴田が質問していきます。

教材を作ることで、KYTを深化させていくきっかけに

袴田:
VR-learningのデモを体験された感想はいかがでしたか?

笹尾氏:
まず感じたのは、怖さを体感させることで安全意識を高められるだろう、というメリットです。これは、少なくとも安全教育において、一定の効果が期待できるでしょう。それに今のデジタル時代の人たちにとって、VR教材は受け入れやすいと思います。むしろ今の人たちには、紙の文章やイラストなどでは伝わりにくいものです。

自分たちが働く現場で撮影して、教材を作れる点も効果的だと思います。既存の教育では、どうしても自分たちの現場に沿っていないため実感が湧きにくいですが、自分たちが日頃の業務で使う機械やいつも通る通路の360°映像を使えば「他人事ではない」教材を作れるため、どこにどのような危険が潜んでいるのかを知った上で考えることができます。これこそ、VR-learningで制作した教材の大きな価値になります。

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自社の現場・作業を再現したVR教材を簡単に自作できる

袴田:
危険を知って考えるという意味では、VR-learningKYTにも一定の効果が期待できる、ということですね。

笹尾氏:
最初のきっかけとして、「KYT活動が定着するか」という点が重要でしょう。VR-learningで教材を作る側が、そこを意識して制作すれば、意義のあるKYTにできると思います。また、既存の教材にはKYTの本質、すなわち行動変容を促すといった観点のものがあまり存在していません。それを意識しつつVR-learningで作ってみることをおすすめします。VR-learningなら外注せずにVR教材を制作できるので、自分たちで数多くの教材を作りながら、より効果的な手法を模索していくことで、作る側にとっても本質的なKYTの実践につながるかと思います。

袴田:
KYTの本質を突き詰めるためにも、教材を作り、活用し続けることが重要ということですね。

笹尾氏:
加えて、VR-learningが現場とマネジメント側の安全に対する目線を合わせることに繋がるような使い方もあるかと思います。VR-learningを導入して教材を制作するのは、作業者側でなく主に管理者側ですよね。つまり、本来は職場の自主活動であるKYTに、マネジメントからも同じ熱量で関与できるツールということになります。そして教材を作る過程で、管理者側も安全に対する意識が深まっていくことでしょう。管理者側と作業者側とが、この教材を通じて安全意識、安全活動の共通のものさしを持ち対話できる関係にもなり得るのです。

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不安全な行動は見えにくく、実際に見せても分からないことが多い

袴田:
では、VR-learningでの教材制作において、具体的にどういった留意点が考えられるでしょうか?

笹尾氏:
教材を作る上で留意してほしい点は、いくつかあります。例えば、不安全な行動は見えにくいことがあるため、分かりやすくする工夫が必要でしょう。例を挙げるとパレットを踏み台代わりにして作業をしていたら、足元が見えなくなって踏み外す、といったケースです。こういった状況は映像化しづらいでしょうし、映像になっても分かりにくいかと思います。そういった不安全な行動を加味した教材も工夫次第でできるのではないでしょうか。

袴田:
VRゴーグルで視聴すれば、頭上の作業対象に注視して足元が見えない、という状況も体験できそうです。

笹尾氏:
他にも、「頭上が低い場所では、つい上を見てしまって足元が疎かになる」「荷物を両手で抱えて運んでいると足元が見えない」などの状況も考えられます。これらも同様にVR教材で体験すれば当事者として理解できるため、気付きにつながることでしょう。

袴田:
VR-learningをお使いのユーザーの多くが、VR教材による「体験」を評価してくださっています。その教材の中で、「ハッとするような怖さ」「ゾッとする瞬間」を感じるよう工夫することが安全教育においては重要だ、ということですね。実写である以上、あくまで「疑似」でありますが、例えば転倒や転落など、疑似体験でも視覚的な演出次第で十分に怖さを伝えられると思います。

笹尾氏:
現場に入ってリアルな環境で学ぶことも重要ですし、体感教育もインパクトがあります体感教育には一定の効果があります。転落の恐怖は一度経験すれば分かりますが、実際に現場で発生してはいけないものです。VRで疑似体験することによって恐怖を知ってもらえるなら、それが望ましいと思います。

体験した上で、不安全な行動をなくすためにどうすればいいかを皆で考え、話し合うことが重要です。行動内容によっては危険が見えなくなることもあると気付いた上で、どのように行動すれば避けられるかを考えていくことがKYTにおいて重要なことです。

袴田:
例えばVR教材の中に、頭上が低い場所を通るときは立ち止まって頭上だけでなく、足元や周囲も確認してから進むような選択肢を設けるのも1つの手ですね。荷物を抱えて通路や階段を歩く場面なら、荷物をずらして足元を確認する、といった動作になるでしょうか。

笹尾氏:
不安全な行動を避けるための話し合いの材料としては、良いと思いますね。もし教材の中で、「不安全な行動とそれによる結果」「危険を回避するための行動」の両方を示すことができるなら、それらを基に話し合っていけそうです。



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選択に応じてシナリオを分岐させることが可能
設問に答え間違った選択肢を選択した場合は感電のシーンに分岐する

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エフェクトによる演出で、ユーザーの印象に残る体験設計が可能


袴田:

そういった観点では、「初心者にありがちな不安全な行動」「熟練者にありがちな不安全な行動」などの例を紹介していくことも効果がありそうです。

笹尾氏:
良いアイデアだと思います。初心者と熟練者とでは、不安全な行動に至る要因が異なる傾向がありますから、その違いを理解することも考察を深める材料になるはずです。

袴田:
VR-learningのお客様からは、から「何から作ればよいか迷う」「まずは標準的な教材が欲しい」という声もいただきます。

笹尾氏:
安全教育に関して言うなら、B-EN-Gがツールの提供と作り方の指南を行い、各企業が自社で制作することが望ましいと私は思います。自社で教材を作ること自体に意味があるものですし、自分たちの現場をそのまま教材にできるというのがVR-learningの大きな強みだからです。もし、安全担当部署の方々が標準的な教材を欲するというのであれば、KYTなどの基本を理解してもらうことから始めていただいた方がいいかもしれません。

袴田:
「効率的な安全教育」と「本質的なKYT」の両立ですね。

笹尾氏:
大事なのは、VRを見せることが目的ではなく、それを見た現場の皆さんが「ウチの職場ならどうする?」と自分の頭で考え、話し始めるきっかけを作ることです。最新のテクノロジーを賢く使いながら、現場の安全を追求し続けてほしいですね。

袴田:
VR-learningという道具を通じて、若手から熟練者までが「同じ目線」で安全を語り合える。そんな環境づくりを私たちもサポートしていきたいと思います。笹尾様、本日はありがとうございました。

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笹尾 健臣 氏

中央労働災害防止協会 安全衛生エキスパート
ANZENじゃぱん株式会社 代表取締役

総合化学メーカーでの設計・運転管理を経て安全衛生課長に就任し、KYTの全社定着を実現。中央労働災害防止協会では上席専門役として、上場企業を中心に研修・講演を多数担当。ゼロ災運動プログラム研究会の総括や教育プログラムの構築にも携わる。現在は、安全文化の定着を目的とした伴走型支援を展開。理論と実務を融合した実践的な指導により、多くの企業の安全レベル向上に貢献している。

https://anzenjapan.co.jp/
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